重度頸髄損傷者の日常生活における電動車いすの重要性
An electric wheelchair is important for a cervical spine injured person
in daily life.
キーワード:四肢麻痺、頸髄損傷、電動車いす
1)はじめに
私が頸髄損傷により首から下の動きや知覚を失って約18年になるが、受傷当時よりチンコントロール・リクライニングの電動車いすを使用している。今回の交付により計4台目の電動車いすとなり、電動車いすも高性能・高機能化することにより、私自身の生活も向上してきた。現在は都内で公的ヘルパー制度などを利用し「ひとり暮らし」をしているが、障害者団体の活動を始め、余暇活動や買い物などすべての外出などの日常生活に電動車いすを使っている。
今回の発表では重度頸髄損傷者の生活には無くてはならない「自分の足」としての、電動車いすの改造や自分なりの工夫を紹介する。
2)電動車いすの交付から製作
以前の3台の電動車いすは国産のチンコントロール・リクライニングの電動車いすを使用していた。電動車いすの補装具による対応年数は6年だが、友人達が高性能な電動車いすに変わる中、私の電動車いすは速度も遅く、1度の充電で走る距離も短く、非常に辛い思いもしてきた。交付決定前より友人の話を聞いたり、ホームページを検索したり「失敗しない電動車いす製作」のために準備をしてきた。インターネットにより電動車いす製作業者「(有)エルピダ」を見つけたのは約1年前だが、その当時から電動車いすの車種、改造、基準外交付についてもエルピダと検討を重ねてきた。2001年7月に基準外交付判定を受け、数ヶ月後基準外交付が決定した後、十数回エルピダに通い、製作者と実際に話し合いながら試行錯誤繰り返し約5ヶ月かけて完成した。
今までの電動車いすの製作は「私が口頭で業者に説明して数ヶ月後、電動車いす出来上がる」と言うものだったが、エルピダでは各部の溶接やリクライニングの角度からフットレストの位置、チンコントロール部のスイッチ類の取り付けなど、すべてのことを私の見ている所で製作すると言うもので、身体に合わせベストな位置に来るよう、ユーザー側の意見を聞きながら時間を掛けて製作し「本当の意味での自分の電動車いす」が出来たと確信している。
3)電動車いすの工夫
a 電動車いす(インバーケア製)
以前の電動車いすはやはりパワー不足は大きな問題で身長178cm体重63kgの私が乗り大きな荷物を背もたれに掛けると時速6km/hの電動車いすが、非常にスピードが落ち長い踏切や横断歩道などでは危ない目にも遭った。自立生活を始めるようになってから障害者団体の活動・余暇活動などに電車やバスなど乗る機会も増え、よりコンパクトで小回りの利く電動車いすが求められた。国産の既存の電動車いすは座面が高く不安定で移送サービスなど車種によっては乗れない場合もあった。いろいろな条件からエルピダとも話し合い「インバーケア・レンジャーX(GBモーター)」にした。

写真1 電動車いす(インバーケア製)
b 電動リクライニング・シーティング
以前の電動車いすではリクライニングを上下すると身体がずれ、一日に何度も座り直したり安全に走行出来なくなるという問題もあったが、シーティングの重要性が叫ばれる中、エルピダでも何時間乗っていても身体にも負担が少なく乗っていられる電動車いすの重要性は十分理解しての製作となった。
完成後は朝からベットに戻るまで電動車いすで過ごせ、床ずれの問題も無く今では障害者団体の集まりなどで深夜まで友人達と話が弾み、丸2日間ほど電動車いすで過ごすこともある。

c バッテリー移行
私が電動車いすを運転する場合どうしてもリクライニングを倒し気味に走行する。この問題点として急なスロープや段差などで後方に転倒しやすいという短所があった。そこでバッテリーを前に迫り出し、重心を少しでも前に持っていくという大規模な改造をエルピダにお願いした。
写真2 バッテリー移行

d チンコントロール部分
私の電動車いすで一番細かい改造で、運転するチンコントロールレバーの回りに速度調節のレバーやリクライニングのレバー、ライトのスイッチ、携帯電話用のマウススティックなどを運転に支障のないように配置しなくてはいけない。首の動く範囲に上手く配置しすべて自分自身が操作できるようにすることが自分の電動車いすの第一条件でもあった。他にもマウススティックを使い携帯電話を操作したりコップ立てに缶ジュースを置きストローを挿せばひとりでジュースも飲むことが出来、この電動車いすの最大の工夫箇所でもある。
写真3 チンコントロール部分
e ライト
以前の電動車いすでも自転車用のライト(乾電池)を付けいていたが、あまり明るくなく電池も頻繁に交換しなくてはならなかった。今回の新車にはバッテリーから直接電気を取り、自分でスイッチを入れられ、夜間でも安全に走行できるライトをお願いした。前方には自動車用のフォグランプを、後方には赤く点滅するオートバイ用ランプを取り付け、側面にも自動車用の点灯するアクセサリーも取り付けて安全性も増した。

f 持ち手
昨年交通バリアフリー法も施行され駅などエレベーターや車いす対応型エスカレーターなども増えてきたが、街にはまだまだ階段や段差が残り、駅員や通行人に手伝いをお願いする機会も多々あるのは事実である。電動車いすを持ち上げる時は、大人が8人以上は必要であり、その持つ位置の為に持ち手は絶対必要である。今回の持ち手の工夫としてホームから電車に乗る時にキャスターを持ち上げやすい様に前輪キャスターの前まで延ばした。駅員やその他の乗客がサッと手を伸ばしやすい様になり乗降もスムーズになった。
写真4 ライト・持ち手

g フットレスト
電動車いすの壊れやすい部分の1つにフットレストがある。狭い所などでぶつけたりすると、すぐに曲がったり折れたりと、丈夫な作りが求められた。エルピダとも話し合い電動で上下しないが、持ち手と一体型のフットレストを製作し頑丈さもより増した。
写真5 フットレスト
4)電動車いすの重要性
高性能で長距離も走れる電動車いすを手に入れたことで、唯一の残存機能である首の動きなどを利用し、歩くのと同じように好きな場所に移動し、リクライニングを倒して休憩し、携帯電話を操作する。「自分の好きな時に自分の意志で自分でする」という人に頼らないという精神的な面でも大きなものを得ることが出来る。電動車いすが故障し、数日間ベッド上の生活が続くと自分の身体の調子が悪いように感じる程、電動車いすが私の身体の一部となっているのと言える。
5)問題点
問題点の1つに高価であると言うこと。今回は基準外交付が決定したことで自己負担はなかったが、本人の生活の中での電動車いすの価値観にもよるが、100万円以上になるとやはり高価といえるだろう。その他、付属品などで車重が増えてしまうことや、スピードの出し過ぎによる事故などにも特に注意が必要である。
6)最後に
数ヶ月前、駅から自宅までが真冬や悪天候などでは、非常に長く感じ自分にとっては辛い時間でもあった。しかし今では快適に帰ってこられる様にもなり、バス移動していた所でも、待っている時間を考えたら走ったほうが早いこともある。4台目の電動車椅子は本当に120%の仕上がりでもあり、今回の改造を通して、改めて電動車いすのユーザーの要求を理解し、本当の自分の足となる電動車いすを作成してくれる業者の重要性を感じた。
いろいいろ相談にのってくれ、ユーザー側の意見を取り入れながら製作してくれたエルピダに心より感謝したい。
この論文に合わせて私のホームページを見ていただき、電動車いす・パソコン・マウススティック、天井走行式のリフターなどの頸髄損傷者の生活の様子や、旅行記など紹介してあるので、ひとりでも多くの頸髄損傷者に役に立てば幸いである。
(有)エルピダ・ホームページ
http://www.interq.or.jp/sun/elpida/
参考文献
1)麸澤 孝 四肢麻痺者の自立生活を支えるマウススティック
第14回リハビリテーション工学カンファレンス講演論文集 、
115-118、1999
