頸髄損傷者の賃貸マンションにおける住宅改造と生活の質の向上


                                       
   キーワード:頸髄損傷、住宅改造、自立生活

1)はじめに

 私は交通事故による頸髄損傷の四肢麻痺をもって約19年になる。病院・療護施設と生活の場を変え、6年前に都内で公的ヘルパー制度などを使って自立生活を始めた。時間の経過と共に生活も安定し、福祉機器の開発モニターや大学・専門学校での講演活動などで収入を得ることが出来るようになった。そのころから「自分としてこれからもっと活動しやすい場所で生活していきたい」との思いが強くなり引越しを考え始めた。昨年12月にマンションも見つかり、住宅改造や福祉用具の活用により思っていた以上に快適な生活を送っている。今回、車いす障害者である私の賃貸住宅の契約、福祉事務所との交渉、現状復帰を前提とした住宅改造、そして重度の頸髄損傷者の生活の質について報告したい。

2)引っ越し

a)物件探し

 不動産屋を回っても車いすと言うことで親身に相手にしてくれる所は少なく、「門前払い」も何度も経験した。昨年夏頃からはインターネットを中心に、ホームページなどで条件の合う可能性の有りそうな物件があるとすべて電子メールを出し、良い返事が帰って来た物件のみ話を進めていた。実際に内見に行くとエレベーターが狭かったり玄関に段差があったりと20件以上の物件を見たがなかなか納得のいく物件が無く、諦めかけていた時にこの物件が見つかり即決し契約した。

b)制度等の変更

 私のような全身性障害者が別の市区町村に引っ越す場合、ホームヘルプ制度や各種福祉手当・訪問看護・巡回入浴サービスなどいろいろな制度が変更になり、それらをすべてを自分一人で進め、変更手続きや住宅改造の打ち合わせなどで引っ越し前のアパートとマンション・区役所を行ったり来たりの毎日で、引越しを挟んだの3週間くらいは季節的にも寒いこともあり身体的にも精神的にもギリギリの生活であった。

3)住宅改造(図1参照)

 住宅改造については住宅設備改善費の給付制度をすべて使い、和室2部屋をフローリングにして車いす動きやすいようフルフラットにし、天井走行リフトを以前のアパートから移設して、操作も以前と変わらず部屋が広い分、操作性も大きく向上した。ベッドの上の天井に液晶テレビも取り付け上を見たままテレビが見られるようにした。
 その他、以前からの希望であった浴室にリフトを取り付け、車いす対応の洗面台を付けた。以前のアパートでは週1回の巡回入浴と週2回の清拭・洗髪だったが、これからは女性介護者でも毎晩でも入浴が可能になり、受傷後病院・療護施設の生活が長かった私は自宅のお風呂に入ったのは初めてで浴室の改造には大きな意味があった。
 朝、電動車いすに乗るとすぐ洗面台で洗面・洗髪が出来、以前のアパートよりも精神的にも生活の質が向上した。

       【住宅改造(写真)についてはこちらへ】

4)問題点

 障害を持つ者(特に車いす使用者)にとって住居の問題は自立生活をするための大きな障壁のひとつでもある。障害者に対する意識の違いなのか、家を探す為に不動産屋を車いすで店頭に行くが快く対応する業者は少ない。数年前の自立生活を始めた時もそうだが今回も「運良く条件の合うマンションが見つかった」と言って良いだろう。
 住宅改造についても「現状復帰」を前提にした改造や設置に限られる為、間取りを変えるような大規模改造は出来ないのも賃貸の制限でもある。 その他、今年4月よりスタートした支援費支給制度だが市区町村によって格差が大きく、比較的制度が良く事業所の豊富な大都市部では家賃も高く、車いすで使えるような間取りを見つけるにも苦労があり、住宅改造の給付金についても格差が大きいとも言える。

5)まとめ

 障害を持つ者にとって「生活の場」の違いは大きく生活の質にも関係する。以前のアパートと比べ、駅・区役所・銀行・スーパーなどが近くにあり、障害者活動などで良く行く新宿などにも20分程で行けるようになった。介護者の部屋と寝室が離れている為、プライバシーも守られる。そしてマンションなので機密性が高く、静かで暖かく体温調節の難しい頸髄損傷者は非常に嬉しいことでもあり、生活の場の違いでこれ程「生活の質」が向上するものかと驚くらい実感している。

6)最後に

 今回の引っ越しでは私の意見を大きく取り入れ、住宅改造・福祉機器の選定などにアドバイスをしてくれた福祉機器業者・工務店の方、そして電動車いす使用の私に快く貸してくれたオーナーさんに心から感謝したい。
 この論文に合わせて私のホームページを見ていただき、電動車いす・パソコン・マウススティック、天井走行式のリフターなどの頸髄損傷者の生活の様子や、旅行記など紹介してあるので、多くの頸髄損傷者の生活に役に立てば幸いである。