四肢麻痺者による自作ホームページを中心としたインターネットの活用
Means of communication by a quadriplejia. Utilization of the self-made home page and the Internet.
  キーワード:四肢麻痺、パソコン、マウススティック

1)はじめに
 私は頸髄損傷による重度の四肢完全麻痺者であるが、マウススティックを利用し数年前からパソコン(インターネット)を始めた。インターネットの爆発的普及は障害者の生活をも大きく変え、その中でもホームページでは私達にとって一番大切な情報を簡単に得られるようにもなった。
 最近では障害を持った個人がホームページを開き、日常生活を常時発信して必要な方に提供するという逆の立場にも成りつつあり、私自身もホームページを持ち自立生活の様子・旅行記などを公開し、同じ障害を持った仲間やその家族、リハビリテーション関係者など、ホームページを見た方からの問い合わせや受けたり、アドバイスをしたりと、四肢麻痺者の生活の向上に一役買っている。
 今回の発表では四肢麻痺者の日常生活や旅行記などを公開している自作ホームページを中心とした四肢麻痺者のインターネットの活用について発表したいと思う。 

2)パソコンの操作 図1

電動車イスに乗り、図2のような80cmあるマウススティックを使い、パソコンのキーボードを押している。マウスの操作は標準装備のマウスにダイセム(ADLエキスプレス社)いう滑り止めを貼り、マウススティックで操作する。
 マウススティックが長いことで歯や首の疲れもひどく、続けての入力は非常に疲れるので入力中に休憩を取るようにしている。

          

                       図1 使っている、パソコン

3)インターネットの活用例

a ホームページの作成
初めは、HTMLタグを覚えようと本などを勉強しはじめたが、ホームページ作成用のソフトを手に入れそれを使用した。ソフトにはアニメーションなどのホームページ作成用のロゴなどがたくさんあるが、文字を大きくして見やすくするなど「シンプル」を心がけ仕上げている。

b「ふざわたかし・ホームページ」の紹介
ホームページの作成は、目次から大きく分けて、自己紹介・自立生活・海外旅行・国内旅行・近所の地図・リンク、に分かれている。
自己紹介のページは16年前の受傷から病院・療護施設・自立生活への生活の変化や障害の受容の様子を記録している。
 自立生活のページは自立生活の疑問に答える自立生活Q&Aや自立生活を支える訪問看護などのケアシステムやリフターなどの福祉機器などを写真入りで紹介している。
 旅行のページでは飛行機・鉄道・路線バスなどの公共交通機関を利用した海外・国内の旅行記を通して車いすでの交通機関の利用の仕方を紹介している。
その他、家に遊びに来る車いすの友人のために、最寄り駅などの車いすアクセスや近所の地図も載せている。

┌8月26日に生まれて
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│└自己紹介や受傷から現在までの活動

├麸澤 孝 的、自立生活
││
│├自立生活Q&A
│├使っている福祉機器や住宅改造の写真
│└わが家の見取り図

├なぜ、フィリピンなの?
││
│├初めての飛行機、海外(95年2月)
│├自信のついた7日間(96年2月)
│└緊張の国際線一人旅 (96年12月)

├電動車いすで国内旅行
││
│├98年7月 高松・岡山・北九州・博多
│├98年8月 リハ工学カンファレンス
│├99年4月 神戸・明石海峡大橋・大阪
│├99年6月 頸髄損傷者連絡会総会
│├99年6月 碓氷峠 鉄道文化むら
│├99年7月 札幌・旭川
│├99年8月 リハ工学カンファレンス
│├99年10月 広島「はがき通信」懇親会
│├00年3月 沖縄 那覇・首里城
│└00年5月 伊豆 下田・伊東

├ひまわり荘へのアクセス
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│└西武新宿線の車いすアクセス

└リンクのページ

図3 ホームページの構成

写真は合計で約100枚になる。 6月10日現在、3600件のアクセス

c 電子メール
 私は数年前より、事故や病気などで手足が麻痺した方、その御家族、リハビリテーション関係者のための情報誌「はがき通信」の編集・発行を手伝ってきた。第1号は1990年2月に発行されたが、当時はワープロもあまり普及していなく、代筆がほとんどで封筒に入れ切手を貼り投函してもらうなど、介護者の負担が大きかった。
 しかし、パソコンの普及・インターネットの出現した現在は、キーボードで打ち込み電子メールにして相手に送る。それをワープロソフトに読み込み、原稿を作り印刷するなど、ほとんどの作業を自分で出来るようになった。それは介護者の負担を軽減するだけでなく、インターネットの環境があるだけで「自分の意志で自分で出来る。」という素晴らしい物を得ることが出来、精神的に見てもとても大きいものがある。
 
4)問い合わせ について

 過去1年間で40件程の問い合わせの中では、やはり、本人からの電子メールでの問い合わせや意見が多く、受傷後間もない方の家族からの切実な問題も寄せられる。その他、訪問看護ステーションなどから閉じこもりきりの患者さんに「外に目を向けて上げたいが良いアドバイスを・・・」などもある。
 障害を受容したが、家族が高齢になり自分の介護が出来なくなった時、自分はどうしたら・・・? など、将来の生活についてなどが多く、大半は私の生活に共感・激励などである。その他、全く手の動かない頸髄損傷者が「ひとり暮らし」をしていることを疑問に思い、介護者や金銭面など生活状況をしつこく聞かれたケースもあり、どこで線を引くか? も、難しい問題である。

5)問題点

 長時間入力作業などでマウススティックを使うと、非常にあご・首が疲れる。首は私の様な頸髄損傷者が唯一自由に動かせる非常に大事な部位であり、疲れすぎると日常生活にも支障が出ることや、マウススティックを使用することによる歯への悪影響も報告2)されており、注意が必要である。
 ホームページを作るに当たり、私の「実名」を出すのには少々迷ったが、多くの問い合わせや、実際に訪問される方も多く「公開」しているが、プライバシーには未だに抵抗があるのが本当である。
その他、問題点と言って良いかわからないが、障害者がパソコンと出会い、インターネットという世界では障害を感じないために、積極的に参加するが本来の社会生活では、ハンディーを受け、人目を気にしたり、人に迷惑をかけることを恐れるという、受容し始めた障害を逆行してしまうことも考えられる。

6)最後に

 今回、四肢麻痺者のインターネットの活用に付いて述べたが、私が受傷した十数年前はパソコンも非常に高価であり、リハビリテーション病院でのワープロ練習としてパソコンを借りて練習してきた。その当時はこのようにパソコンが障害者の生活に密着することなど予想もつかなかった。
 しかし障害者の社会参加が叫ばれ、交通機関や公共施設のエレベーター・スロープなどの「バリアフリー化」も、もちろんだが、在宅での障害者の生活の質も大きく変わってきた。そのひとつにパソコン(インターネット)があると思う。パソコンの値段も下がり手軽になったこともあるが、パソコンを障害者が車いすやリフターと同じように「福祉機器のひとつ」として利用している。
 2000年3月に沖縄旅行に行ってきたが、今回の旅行については電車時刻の検索・飛行機の予約・ホテル(車いすの対応など)の予約・観光地の情報収集や地図・現地との連絡など、ホームページを検索し、電子メールのやり取りだけで電話・FAXを使わずに、すべて家にいながら自分のパソコンで旅行の準備をした。
 近年のインターネットの普及およびパソコンの技術革新は、これまで活動の範囲が制限されがちな障害者にとって、絶好のチャンスを与えてくれ、まだまだ駅や道路の整備などの遅れている現在でも、インターネットの世界ではそのハンディーはまったく無くなった。

 これからはより重度な障害者もパソコン・インターネットをより一層活用し生活の質の向上を期待すると共に、私自身もホームページにより情報発信し、それに貢献したい。

 この論文に合わせて私のホームページを見ていただき、パソコンとマウススティック、天井走行式のリフターなどの在宅での重度頸髄損傷者の生活の様子や、旅行記など紹介してあるので、頸髄損傷者本人、頸髄損傷者の医療や社会参加を支援するリハビリテーション関係者にも参考にしていただき、ひとりでも多くの頸髄損傷者に役に立てば幸いである。

はがき通信・ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~sq6h-mkib/PCC1


参考文献
1)麸澤 孝 四肢麻痺者の自立生活を支えるマウススティック 第14回リハビリテーション工学カンファレンス講演論文集 、
115-118、1999

2)平川博志、櫛野榮次、寺師良輝、マウススティックの歯科学、リハビリテーションエンジニアリング、13(2)、21−26、1998