四肢麻痺者の自立生活を支えるマウススティック

                     四肢麻痺者の情報交換誌 「はがき通信」 麸澤 孝

1.はじめに 
 私が頸髄損傷により首から下の機能を失って約15年になるが、受傷当時より残存機能を最大限利用しマウススティックで、パソコン入力・本のページめくりを練習してきた。約8年間のリハビリテーション病院入院中に作業療法士などのアドバイスを受けながら、噛む部分の素材などを変更・改造を繰り返し、現在のマウススティックを使うようになる。
 現在は都内で公的ヘルパー制度などを利用し「ひとり暮らし」を始めたが、24時間の介護体制をとっていてもひとりで居る時間があり、テレビのチャンネルを変えたりエアコンで室温を調整したり電話をかけたりと、今の生活にとってマウススティックは絶対に欠かせない物になっている。 今回の発表では、パソコン・読書を始めとして四肢麻痺者の趣味や余暇時間を過ごすのに無くてはならない、マウススティックの使い方や工夫を紹介する。
2.使用しているマウススティック 
 現在、パソコン用・ベッドサイド用・読書用・デジタルカメラ用と、4本のマウススティック(図1)を使い分けている。長さや重さ、素材などもそれぞれに使いやすい様に工夫しある。すべてのマウススティックは、手作りである。
 噛む所はオルソプラスト(ジョンソン&ジョンソン社)という素材で熱湯で柔らかくなり、好きな大きさに切れ加工も容易である。この部分の角度を変えることで、噛んだ状態でのスティック部の向きを、適切に設定している。清潔を保つよう気を付けているが、特にカバーなどはしていない。スティックの部分は主に木を用い、スティックを曲げる必要がある場合は金属を用いている。 スティックの先の部分はダイセム(ADLエキスプレス社)いう滑り止めを巻いている。

図1 四本のマウススティック

3.使用例
3.1 パソコン入力 
 普段は電動車イスに乗り、図2のような長いマウススティックを使い、パソコンのキーボードを押している。噛むところはすべて共通だがパソコン用の棒の部分はφ9mmの木を使い、約80cmになる。重さは59gである。マウススティックが長いことで歯や首の疲れも増えるが、マウススティックをくわえながら、電動車イスで移動してテレビなどのスイッチ類も操作可能にしている。続けての入力は非常に疲れるので入力中に休憩できるよう図3のようにマウススティックを置く所もある。

図2 パソコン入力



図3 マウススティックを置く台
3.2 ベッドサイド
 私が生活する中で一番重要なマウススティックである。図4にある大きなリモコンでテレビ・ビデオ・ケーブルテレビ・ミニコンポ・エアコン・ノートパソコン(図5)を操作出来るようにしてある。電話(子機)も大切な機器のひとつであり、着信のみ「はーい」の声でつながる機能があり、こういった一般商品も四肢の不自由な障害者にとってもたいへん有効である。

図4 ベッドサイドのリモコン類



図5 ベッド上でのパソコン入力

 このベッドサイドのマウススティックが使用頻度が一番高く、一度電動車イスで踏んでしまい折ってしまった時、非常に不便な思いをしたので、それから予備を用意している。 長さは41cm、重さは58gと短いわりには少々重いが、今では重さは感じない。
3.3 読書(図6)
 現在の所、読書はベッド上だけで就寝前だけであるが、私の余暇時間のひとつでもある。本によっては非常にめくりづらく、文庫本より雑誌タイプの本は比較的簡単である。私にとって読書が一番疲労の大きいマウススティックを使う動作であるが、長さ36cm、重さ50gと軽量と言うこともあり、ついつい長時間になってしまいがちで注意している。


図6 ベッド上での読書

3.4 デジタルカメラ
 図7のように電動車イスのチンコントロール部分にステーを付け、デジタルカメラを固定している。マウススティックは長さ30cm、重さ40gであり、途中を曲げてボタン類を押しやすくしている。マウススティックにはベルクロを取り付け、使わないときにはステーの部分に張り付けておく。デジタルカメラは、マウススティックで押すことで、レンズの上下方向を設定できる機種(カシオQV−770)を選択した。これにより、シャッターを含め、すべての操作はマウススティックで可能である。これはあくまでも趣味のひとつであり、旅行などに出かけた時などにホームページの素材集めなどに使っている。

図7 電動車イスでのデジタルカメラ操作
4.問題点 
 マウススティックを使うにあたり最大の問題点として「あご・首の疲れ」が上げられる。私は特に歯やあごが強いわけでもないが、マウススティックを噛み、長時間パソコンに向かったりすると非常にあごが疲れ、次第に噛む力が弱くなるのかマウススティックを落とすようになる。それと同時に首の疲れも感じられる。首の疲れはマウススティックだけによるものではなく、電動車イスの操作(チンコントロール)も考えられるので何とも言えないが、首は私の様な頸髄損傷者が唯一自由に動かせる部分であり、寒い時期などは痛みも増し、頭痛や歯痛にもつながる事もあるが、マウススティックを使わないと日常生活が成り立たず、無理をしても使っているのが現状である。
 マウススティックを使用することによる歯えの悪影響も報告1)されており、注意が必要である。
 私の様な頸髄損傷者では呼気入力の環境制御装置(ECS)なども有効であり、何人かの知人たちも受傷当時から使っているのを知っている。私は入院生活が長かったせいか、初めからマウススティックを使っている事もあり、環境制御装置を使うにはやや抵抗があった。高価と言うこともあるが、選択までの待ち時間や階層構造になっているため時間が掛かりすぎることが大きな障害になっているのが本当である。(マウススティックなら、リモコンのボタンを押すだけである。) マウススティックに変わるようなものとしてヘッドポインターなども検討中であるが、一度付けるとマウススティックの様に使用目的によって変えることが出来ず、まだまだ検討が必要である。
 これからはベッドや電動車イスに乗ったままで、すべての機能が自分の声だけに反応する音声入力などにも期待したい。
5.最後に 
 今回、四肢の麻痺した頸髄損傷者とマウススティックに付いて述べたが、私が受傷した当時からみれば重度の身体障害者の生活も飛躍的に向上したと思う。交通機関や公共施設のエレベーター・スロープももちろんだが、在宅での生活の質も大きく変わった。その中のひとつにパソコンがある。以前は代筆してもらい封筒に入れ切手を貼り投函してもらう。すべてを介護をする人の力に頼っていたが、今ではセッティングさえ整えば、電子メールを送ったり、受けたりホームページで必要な情報を得たりと、私たちにとって一番大切な情報を簡単に得られるようになった。
 私たち障害を持った者が何かをする時、人に手を借りるのは仕方ないことであるが、マウススティック一本あるだけでそれを最小限にし「自分の意志で自分で出来る。」という素晴らしい物を得ることが出来、精神的に見てもとても大きいものがある。
 この論文に合わせて私のホームページを見ていただけるとマウススティックを含め、天井走行式のリフターなど重度の頸髄損傷者の日常生活の様子を見ることが出来るので、参考にしていただけると幸いである。
参考文献
1)平川博志、櫛野榮次、寺師良輝、マウススティックの歯科学、リハビリテーションエンジニアリング、13(2)、21−26、1998