「施設内での活用を経て」

                     麸澤 孝  東京都保谷市 在住
                     (頚髄損傷による四肢完全麻痺)

 私とパソコンの出会いは約13年前、受傷して間もない入院中のリハビリテーション病院での作業療法訓練室でしたが、当時は「なぜ、私にパソコンが必要なのか?」わかりませんでした。十分もすると起立性低血圧で目の前が真っ暗になりディスプレーが見えなくなって、キーを打つより電動車イスのリクライニングを倒している時間の方が長かった気がします。時間がたち、段々自分の身体障害の受け入れられるようになると、友人に手紙を書いたり、障害者団体の機関誌に投稿したり、住所録を管理したり、余暇時間にゲームをしたりと病院という限られた生活の中で、私の残存機能を考えると、パソコンが最適な道具でもあり自分の手でもあることが分かり、その頃からパソコンに興味を持ち始め、雑誌や本を買ってパソコンについて勉強するようになりました。
 パソコンを始めるにあたり(ワープロでもそうですが)私のような上肢に障害がある者にとって一番の問題が「キーをどのように押したらよいか?」ということです。当時のパソコンは病院の作業療法室の物でしたのでキーボードなど改造することも出来ず、しかたなくマウススティック(口にくわえてキーなどを押す棒)を70cm程に伸ばし、純正のキーボードとトラックボール(マウス)で入力することにしました。始めはマウススティックが重くて首の負担が大きく、長時間は入力出来ませんでしたが、しだいに首も強くなったのか(パソコンに夢中だったのかも?)あまり気にならなくなりました。結果的に現在、TV、ビデオ、電話、アマチュア無線機などをマウススティック一本で操作する私にとって、当時のパソコン訓練が首の強化につながったのだと思います。その他、特別な事はしていませんが、電源、リセット、プリンターのボタンなどマウススティックで操作出来る位置に置いたり、シートフィーダー(自動給紙)を使い、多めに紙をセットしておけば長時間もひとりでパソコンに向かうことが出来ます。
 約八年間の長い入院生活を終え、平成四年に身体障害者療護施設「カーサ・ミナノ」に入居し、同時にパソコン通信を始めました。幸いカーサ・ミナノは新設の療護施設だったため、各部屋に電話回線が引いてありNTTに加入するだけで部屋の改造や施設側との交渉もなく療護施設内でのパソコン通信は以外とスムーズに始められました。パソコン通信の楽しさや便利さは言うまでもありませんが、療護施設という空間ではパソコン通信はとても便利で、使えば使うほどいろいろな使い方が分かってきました。
 まずひとつに、療護施設の多くは外出が難しく外との交流を閉ざされがちですが、私たち障害を持った者に一番大切な「情報」をパソコン通信によって療護施設の居室で得ることが出来るという事です。ニフティーサーブという大手パソコン通信会社に加入し「障害者フォーラム」を覗けば、全国の様々な障害を持った障害当事者、家族、医師、リハビリテーション関係者などがいろいろな情報を流し、24時間いつでも見ることが出来、またこちらからも全国の仲間に呼びかけたり、質問したりも出来ます。フォーラムは数え切れない程あり、自分の年齢・趣味・職業に合ったフォーラムにアクセスすれば全国の顔の見えない友達が出来、毎日情報交換も出来ます。
 そのほか、皆さんご存知の「電子メール」もとても便利で、私は現在電子メールを受けたり送ったりの為にパソコン通信をやっている状態です。一太郎などのワープロソフトで作った文章をそのまま相手に送ることが出来、プリントアウトをして、封筒に入れ、切手を貼り、ポスト入れるという手間をすべて人に頼まなくてはいけない私にとって、施設の職員に気がねすることなく、自分一人で出来るということはプライバシーの面でも安心して使えます。また、友人が送ってくれた電子メール(原稿など)を受け、それを自分のワープロソフトで再編集も可能です。
 私はパソコン通信を初める数年前から、全国の重度四肢麻痺者の情報交換誌「はがき通信」を同じ障害を持ったメンバーと一緒に始めましたが、当時は原稿の書式もバラバラで校正も大変でしたが、パソコン通信を始めるメンバーも増えてくると、原稿を打ち直すことなく編集も大変楽になりました。今では原稿の最後にはパソコン通信のIDを書き、電話や手紙を使うことなく、新たな情報交換に役立っています。
 そして、パソコン通信の大きな利点に、電話では私たち障害を持つ者にとってどうしても出られない時(消灯後やトイレなど)がありますが、電子メールは相手のことも気にせずメールを送ることが出来、送信・受信時間も表示されるので「Aさん、こんな遅くまで起きてるの!」や「Bさん、メールを受信してないけど体調でも崩したかなぁ?」なんてこともわかります。
 私たち身体の不自由な者とって、パソコンの前で外出することなく情報を得たり、友達を作ったり、買い物をしたり、使い方は無限大です。受傷以前はコンピューターなどあまり興味がありませんでしたが、障害を持ってからパソコンと出会い、パソコン通信を始めたことが自分自身の新たな世界を広げることに大きく役だったのだと確信しています。

 私は、平成九年五月より都内で自立生活を始めました。以前の療護施設入居中は電動車イスに乗るとパソコンにかじりついていましたが、現在は毎日いそがしく、ゆっくりパソコンに向かえる時間が少ないのが残念です。
 これから少しずつですが、自分の時間を作りインターネットのホームページで私の生活を皆さんに紹介し、どんな重度な障害者でも地域で暮らせる素晴らしさを、パソコンによって全国に発信出来ればと思います。